部屋には二人の男。
彼らは人生を、そして
生き方を懸けた戦いに臨もうしている。
許された時間は、90分間
--公演パンフレットより--シアター・ドラマシティで三谷幸喜作の舞台、『90ミニッツ』を観た。
三谷幸喜といえば喜劇の印象が強いが、今作は「倫理」をテーマとしていることもあって笑いは抑えめ。 90分間、暗転が一度もない、西村雅彦と近藤芳正の二人だけの会話劇である。
この二人の会話劇といえば、おなじく三谷幸喜作の『笑の大学』が素晴らしかったが、今作もたいへん素晴らしい作品だった。
ネタバレの無い程度にまずは簡単にあらすじを紹介しよう。
西村雅彦演じる医者のもとに、近藤芳正演じる「少年の父親」が訪ねてくる。
ある少年が交通事故にあい、手術を必要としているのだ。
医者はすべての準備を整え、あとは父親が承諾書にサインをするだけ。
ところが、父親はサインを拒否する。
手術には当然輸血が必要であり、少年は自らが生活する地域の古くからの慣習によって、輸血を禁じられているのだ。
少年の命が救えるリミットまで、90分。
人の命を救うという立場の医者と、自分たちの信念を貫こうとする父親との答えの見えない論理のぶつかり合いが展開されていく。
舞台上はいたってシンプル。白を貴重としたセットに、椅子が二脚置かれている。
舞台中央には天井から一筋の水が絶え間なく流れている。
会話劇の途中、二人が無言で見つめ合う場面などで、この水の流れる音が緊張感を演出する。また、この水の流れは少しずつ削られていく少年の命を暗喩している。
劇中、音楽や暗転は一度もなし。場面によってごくわずかに照明の強弱がつけられる。
『笑の大学』や『12人の優しい日本人』などをイメージすると、今回は少し物足りないかもしれない。かなり実験的な作品であったように思う。
ただ、映画へと仕事の軸足を移し、大河ドラマ以来、「人間」を描くことに重きを置いている三谷幸喜という作家の、ひとつの着地点であるように思った。
脚本にも彼特有の終演時の爽快感はなく、深く、沈み込むように物語が終わる。
賛否のある作品だと思うが、僕は面白かった。
数メートル四方に世界を切り取った「舞台」という箱庭で繰り広げられる二人のやりとりは、やはりライブでしか味わえない趣に満ちていたし、生の役者の演技から揺さぶられる感動も味わえたし。
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